緑と石の物語
リーズの目の前に、レヴの姿があった。
数日ぶりに会うレヴ…
あの日からずっとリーズの記憶から片時も離れることのなかったレヴ…
リーズは自分の心臓が激しく脈打つのを感じた。
あんなに会いたかったのに、いざ本人を前にすると恥ずかしくてまともに顔を見ることさえ出来なかった。



「ジネットさん、馬車も来たことですし、一緒に行かれますよね?」

「…そうですね。
それでは、そうさせていただきますわ。」

ジネットは、リーズの馬車に乗り込んだ。



「まぁ!リーズさん!
すごいバスケット…!」

「えぇ…いつもなんですけど…
今日は、特に作り過ぎてしまったんです。
お野菜の料理もありますから、ジネットさんもたくさん召しあがって下さいね!」

「ありがとうございます。
リーズさん、私が野菜好きなことを覚えてて下さったんですね。」

「えぇ…」

「レヴさんは卵料理がお好きなようですよ。」

「え…そ、そうなんですか?」

ただそれだけのことで、リーズの頬は桜色に染まっていた。



ジネットは先程のリーズの様子が示す理由に薄々気付いていた。
馬車に乗り込むまでずっとその視線がレヴの姿を追っていたことも…



「ちょっと意外なんですが、甘いものもお好きみたいですよ。
飲み物はダージリンティーがお好きで…」

「そ、そうなんですか?」

レヴの話を聞く度に、リーズの顔がぱっと明るく輝く。
ジネットはこの初々しい少女のようなリーズに、少なからず好感を抱いていた。

今日でもう会えなくなるのだから、出来るだけ楽しい時を過ごさせてあげたい…

湖に着き、しばらくすると四人が到着した。
昼食の時間にはまだ少しあるので、このあたりをもう少し走って来るという。



「レヴさん!」

ジネットは不意にレヴを呼び止めた。



「なんでしょうか?」

「今日は、またリーズさんがものすごくたくさんの昼食を作ってきて下さったんですよ。」

「そうなんですか。
それは、どうもありがとうございます。」

「いえ…たいしたものではありませんから…」

「ねぇ、リーズさん、あなたは馬はお好きですか?」

「え?えぇ…好きですよ。
だいぶ昔に、兄や父に乗せてもらったこともあります。」

「じゃ、レヴさんに乗せていただいたらどうかしら?」

「え?!そ、そんなこと…けっこうです。」

「私はかまいませんよ。
このあたりを一回りしましょうか?」

「い…いえ…そんな、申し訳ないです…
私、運動神経もあまり良くないですし、それに…」

「では、レヴさん、よろしくお願いします。」

「え…ええっ?!」
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