緑と石の物語
レヴは馬を降り、まだ心の準備が出来ていないリーズの身体を抱き抱えると軽々と馬の背に乗せた。

息がかかるほどすぐ前にレヴがいる…
リーズの心臓は口から飛び出さんばかりに脈打ち、緊張で口の中は乾き、意識さえ失いそうになっていた。



「怖いですか?
安心してください。
ゆっくり歩くだけですから。」

「……は…はい…」

リーズはそう答えるだけで精一杯だった。

湖のほとりを軽く一周して戻った。
その間、レヴは気を遣ってかいろいろと話をしてくれたのだが、リーズはもはやその言葉を理解出来ない程の状況にあった。
どんな話をしたのか、自分がどんな答えをしたのか、まるで記憶がない。

レヴに抱き抱えられ馬を降りる。
恥ずかしさと嬉しさでまたもリーズの鼓動は速くなる。



「レヴ様…あ…ありがとうございました。」

「いえ…楽しかったですね。
では、また後で…」

そう言い残すと、レヴはまた馬に跨り、颯爽と駆けて行った。
リーズは、そんなレヴの姿をうっとりとみつめる…



「リーズさん、馬はいかがでしたか?」

「は?は、はいっ!!」

「まぁ…!リーズさんったら…」

リーズのあまりのあわてように、ジネットは思わず吹き出してしまった。



(本当に可愛らしい方だわ…)

リーズとジネットが、昼食の準備を整えしばらくした頃、四人がやっと戻ってきた。



「おぉ!こいつはすごい!
リーズさん、これを全部お一人で?」

「えぇ…」

「フレデリック、リーズは料理だけは小さい頃から得意でな。
ただ、いつも作りすぎるのが欠点なんだ。」

「本当だ!
これは相当頑張って食べないと食べきれないぞ!」

フレデリックは早速目の前に並ぶ料理に手を付けた。



「…これは美味い!!
レヴの言ってた通りだな!」

レヴは大きく頷き微笑む。
それを見た瞬間、リーズの瞳から突然の涙が溢れていた。



「リーズさん、どうなさったのです!?」

「す、すみません。
あ…あの、フレデリック様があんまりほめて下さるから…つい嬉しくて…」

「リーズ、そんなことで泣くんじゃない。
皆さん、驚かれてるじゃないか。」

「すみません…」

「ヨハン、君こそそんなこと言うなよ。
純粋な良い妹さんじゃないか。」

「そうですよ。
リーズさんのような純粋な方は珍しい…
とても素晴らしいことだと思いますよ。」

レヴのその言葉に、リーズの涙はますます止まらなくなってしまった。

レヴに誉められた嬉しさと、もうこれで会えないんだという悲しさと、レヴのことが好きでたまらなくなった切なさが入り混じった感情が心の中に収まりきらずに涙となって溢れ出す…
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