緑と石の物語
「まったく…困った奴だな。」

ジネットはリーズを馬車の中に連れて行った。
ジネットの差し出したハンカチがびしょびしょになって、やっとリーズの涙が止まった。



「じゃ、行きましょうか?」

「私…恥ずかしいです…」

「湖の冷たい水で顔を洗ったらすっきりしますよ!」

「さぁ、行きましょう!」

「でも…」

「…リーズさん…こんな所で時間を無駄にして良いんですか?」

「え…?」



(…まさか…!ジネットさんは私の想いに気がついてらっしゃるのかしら…?)

そう考えるとリーズの顔は熱を帯びた。
でも、ジネットの言う通りだ。
今日でもうレヴとは会えなくなってしまうのだから…

リーズは湖で顔を洗い、精一杯の笑みを浮かべて皆の元へ戻った。



「リーズさん…大丈夫ですか?」

「えぇ…!お恥ずかしい真似をしてしまってすみませんでした。」

「皆さん、本当にすみません。
こいつは本当に世間知らずで…
この町から出たこともなければ、友達もそんなにいないのです。
こんな風にたくさんの人と出かけた事もめったにないんで、どうかしてしまったんだと思います。
許してやって下さい。」

「そんな…ヨハンさん…私達は何とも想ってませんよ。
さぁ、リーズさんも一緒にいただきましょう。」

ヴェールがリーズを席に着かせた。



「しかし、この町から出たことがないとはもったいない話だ。」

「こいつは小さい頃、身体が弱かったもので、両親が気を遣っていたのです。
今では嘘のように元気になりましたがね。」

「そうなんですか?
じゃ、これからいろんな所に行かれると良い。
知らない土地に行くのはいろいろな発見があって楽しいものですよ。
そうだ、レヴ!
せっかくだから、お前の屋敷にご招待したらどうだ?」

「私の屋敷に?
それは別にかまわんが…」

「それは良いですわ!
レヴさんのお屋敷の前にもとても美しい湖があるんですよ!」

「そんな…ご迷惑な…」

リーズは思いがけない誘いに、怖気づいて何度も首を振る。



「いえ…リーズさんにはとてもお世話になったことだし…
リーズさんさえ宜しければ、しばらくうちに来られてはいかがですか?」

「そ、そんな…」

「そうよ、そうなされば?
それとも、何か用事でもありますか?」

「そんなものはありません…」

「では、決まりですね!
明日、私達と一緒に出かけましょう!
良いですね?」

「は、はいっっ!」
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