緑と石の物語
やがて、リーズの屋敷の前に着き、リーズとエリサが馬車に乗り込んだ。



「レヴ様、娘のことをどうぞよろしくお願い致します。」

門の前には、リーズの両親とヨハンが並び、恭しくレヴに挨拶をした。



「娘さんのことはどうぞご心配なさらないで下さい。」

レヴ達は、皆に手を振り馬車は走り出した。



「リーズさん、なにやらまたすごい荷物ですね。」

「は、はい。申し訳ありません。
また昼食をたくさん作ってしまって…」

レヴの顔を見ることもなく、下を向いて小さな声でリーズはそうつぶやいた。
まさか、レヴと同じ馬車で行くとは思っていなかったため、リーズは満足に息も出来ない程に緊張していた。



「リーズ様は、昨夜は緊張のあまり眠れなかったそうで、私がまだ眠ってる朝早くからまたお料理を作られて…」

「エリサったら、何を言うの!
私は緊張なんて…」

「屋敷までは少しあります。
良かったら、馬車の中で眠られたら良い。」

「い、いえ。大丈夫です!!
眠くなんてありません!」







「ジネットさん…さっきのことなんですが…」

「あぁ、あれですか…もしかしたら、ヴェールさんは気付かれていないのですか?」

「何をです?」

「リーズさんのお気持ちですわ。」

「リーズさんの…?」

ジネットにそう言われ、ヴェールはやっと気が付いた。



「なるほど。そうだったんですか、それで…」

「旅に出てしまえばもうレヴさんに会えることもないでしょうし…
リーズさんはあのようにとても可愛らしい方ですから、少しでも良い思い出を作られたら…と思いまして…」

「そうですね…それは良いお考えです。
でも、レヴさんはリーズさんのお気持ちに気付かれてるんでしょうか?」

「…残念ながら、気付いてらっしゃらないように見えますわ。」

「やはり、そうですか…
…こういうことはお伝えした方が良いのでしょうか?」

「お伝えしたら、レヴさんも気を遣われるかもしれませんし…言わない方が良いでしょうね。」

「私は恥ずかしいことに恋愛経験がないもので、そんなことがよくわからないのです。
ジネットさんはさすがによくわかってらっしゃいますね…」

「…え…えぇ、まぁ…」

ジネットは、苦笑いを浮かべた。



(皆さんには、私が恋人を探していると思われている。
私にはそんな人いないのに…
私が探しているのは新しい森の長。
ダニエルさんとオルガ様のご子息…
いまだ、どんな方なのかもわからない方なのに…)
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