緑と石の物語
ヴェールにもそんな誤解をされていることに、ジネットは胸が痛んだ。
しかし、自分は人間とは違う。
好きになっても報われることのない恋なら、最初からこんな風に誤解されていた方がまだマシなのかもしれない…
ジネットは、そう思った。



「ヴェールさんにも好きな方が出来たら、相談に乗りますわよ!」

冗談めかしてそんなことを口にして、ジネットは無理に微笑んだ。



「……頼りにしてますよ。」

そう答え、ヴェールも微笑んだ。
お互いが、その微笑みの裏側に切ない気持ちとほのかな恋心を抱いていることはまだ誰も知らなかった…



やがて昼になり、拓けた土地で馬車は止まった。

馬車を降りる時に差し出されたレヴの手のぬくもりに、リーズの胸は高鳴った。



「ジネットさん、ヴェール、今日もリーズさんが料理を持ってきて下さったぞ。」

「まぁ!嬉しい!」

「リーズさんの手料理はとてもおいしいから楽しみですね。」

「ところで…サリーはまだ寝てるのか?」

馬車の方をみつめながら、レヴが訊ねた。



「ええ、起こしてきましょうか?」

「いや、もう少し寝かしてやった方が良いだろう。
昨夜、あれだけ飲んだのだ。
今はまだ食欲もないだろうからな。」

木陰にクロスを広げ、そこにリーズの手料理が並べられた。



「まぁ!今日は卵料理がいっぱいですわね。」

その言葉にリーズは耳まで赤くなった。



「リーズさん、実は私は卵料理が大好きなんですよ。」

「そ、そうなんですか…」

リーズがちらっとジネットを見ると、ジネットは嬉しそうに微笑んでいる。



(…ジネットさんは、私の気持ちに気付いてる…)

そう思うとリーズは身体までが熱くなるのを感じた。
緊張はさらに激しくなり、食事もろくに喉を通らない。



(こんな調子で、私、大丈夫なのかしら…)



「あとで目を覚ましたら食べれるように、サリーの分をとっておこう。」



(サリーさん…なんだかちょっと怖い人だけど…大丈夫かしら…
今日は眠ってらしてよかった…
だけど、レヴ様にこんなに気を遣ってもらえるなんて、うらやましい…)



そして、また馬車は走り出した。
夕方にはレヴ家の別荘に着く。
そこで一泊して、明日の朝早くに発つ。
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