緑と石の物語




「エリサ…
私、また自信がなくなってきたわ…
毎日こんなことが続いたら…」

部屋に戻ったリーズはエリサに早速泣きついた。



「負けちゃいけません!
リーズ様、なんのためにここまで来られたんですか!」

「なんのためって…私は何も…」

「…………さぁ、今夜はもう休みましょう!
明日はおいしいお菓子を作らなくては…!」

「エリサ…私、皆さんのお口にあうようなものなんて作れないわ…
こちらの皆様は、サリーさんおおっしゃる通り、いつも一流のものばかり食べていらっしゃるのだから…」

「そんなことお考えにならなくて良いんです。
なにもお菓子のコンクールに出すわけじゃありません。
いつも通り、真心をこめてお作りになれば良いんです。」

「いつも通りに…」

「そうですわ。
リーズ様はいつも食べて下さる方が喜んでる顔を思い浮かべながらお料理を作るって、おっしゃってるじゃないですか。
それで良いのですよ。」

「……そう…そうね…わかったわ!
パティシィエに勝てるわけなんてないんですものね。
私はいつも通り、一生懸命作るだけ。
それで良いのね!?」

「その通りです!」



(エリサの言う通りだわ!
私の作ったお菓子をレヴ様に食べていただけるだけで幸せだもの…!
頑張らなくっちゃ!)







「リーズ様!!」

次の朝、リーズがいつもよりゆっくり眠っていると、エリサの大きな声で起こされた。



「どうしたの、エリサ?」

「リーズ様、あれを…」

エリサが指差した先にはたくさんの白百合があった。



「まぁ!どうしたの、この百合…」

「レヴ様からのお届け物ですわ。」

「えっ…レヴ様から…」

リーズの顔が一瞬にして真っ赤に染まった。



「まぁ、リーズ様ったらどうなさったのかしら?
お顔がトマトみたいに真っ赤ですよ。」

「そ、そんなことないわ!
今日は日差しがきついからだわ。
私、顔を洗ってきます。」

リーズは逃げるようにその場を去っていった。

エリサに心の中を見透かされたような気がして不安だったが、それよりもレヴが白百合を贈ってくれたことが嬉しかった。



(私が白百合が好きだってこと、覚えて下さってたのかしら…
まさかね…きっと偶然ね…
でも、嬉しい!!)



リーズは昨夜まで悩んでいたことなどすべて忘れてしまう程、浮かれていた。
部屋に飾られた白百合の花を見る度に自然と顔の筋肉が緩んでしまう…

ところが、朝食の席でレヴと顔をあわせると何も言えなくなってしまうのだ

白百合のお礼を一言いうだけなのに、その一言が言えないのだ。

やきもきする気持ちを抱えつつ、結局、リーズは何も言えないままに朝食は終わってしまった…
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