〜その唇は嘘をつく〜
「お大事に…」
初日、最後の患者さんを送り出した。
「最後のデータ入力お願いね」
「はい」
「私は、戸締まりしてくるわね」
「お願いします」
今日はなんとか乗り切れたけど、北村さんが退職したらどうしよう⁈
診療記録を入力するので精一杯だった。
両立できるか不安だなぁ…
入力が終わりパソコンの電源を落とすとちょうど北村さんが戻ってきた。
「終わったようね。それじゃ、先生と麻里さんに挨拶をして帰りましょう」
院長室をノックして
「お先に失礼します」
「お疲れさま…明日もお願いね」
『「はい…お疲れさまでした」』
「ゆずちゃん、駅まで一緒に行きましょう」
「北村さん、この時間の電車大変じゃないですか?」
「そうなの…だいぶ前にね、席がなくて立っていたら若い女の人が高校生の女の子に席を代わるように注意してくれたの。それを旦那さんに話たら心配して帰りは一緒に帰ろうってことになったのよね。だから、駅で待ち合わせなの」
年上なのにふふふと照れ臭そうに頬を染める北村さんが可愛く見えた。
「愛されてうらやましいです。私も優しくて素敵な人と結婚したいなぁ…あっ、でもその前に彼氏ですけど…」
「あら、世の中の男は何をしているのかしらね」
「私と付き合ってくれる人なんていないんですよね。高校生の時に告白したことあるんですけど…いい感じだったのに急に尻込みされて結局、ふられちゃいました。魅力ないんですかね⁈」
「こんなにかわいい子を私が男なら放っておかない。ゆずちゃんを振るなんて馬鹿よね」
「莉緒…」
声のする方を振り向くと黒髪の甘いルックスで笑顔の素敵な男の人が走って来ていた。
『あの人、私の旦那さん』
小声で教えてくれた。
「お疲れ…慶次」
自然と手をつなぐ2人が微笑ましくみえる。
いいなぁ…
「莉緒…隣のかわいい子を俺に紹介してくれよ」
わたし⁈
「ふふふ、かわいいわよね。彼女は私の後に受付に入る柚月ちゃんよ」
2人に連続でかわいいって言われると照れてしまい、頬が熱くなる。
「は、初めまして…佐藤 柚月です」
「初めまして…莉緒の旦那の北村 慶次です。入ったばかりなのに慌ただしい引き継ぎで悪いね」
北村さんの旦那さんだとわかってるけど…甘いルックスで笑顔を向けられると頬が熱くなる。
「い、いいえ…」
そう答えるので精一杯。