〜その唇は嘘をつく〜

「悠の目、おかしいんじゃない⁈女の人と3人でいたでしょう。それに、慶次さんは、北村さんの旦那さんだから普通に接してただけでしょう」

「へぇ〜ふつうね」

一瞬、冷たい視線が上から見下ろされ、唇を引き結び笑顔を見せる。

なぜかその表情が怖いと感じて視線をそらすと、駅前の時計が電車の時間まで後数分だった。

「やばい、乗り遅れるよ」

慌てて悠の腕を引っ張り駅の中へ。

ギリギリセーフ

目の前で電車のドアが閉まる。

なんとか帰宅ラッシュの電車に間に合ってホッとすると、悠の腕を掴んだままだとやっと気づいた。

「ごめん」

「何が⁈」

視線が合い、とっさに悠の腕を離した。

「あぁ」

幼馴染みだけってだけで彼女でもないのに馴れ馴れしかっただろうかと謝っただけ。

なぜか、悠のそっけない態度に傷ついている自分がいる。

私は、いったい何を期待しているの⁈

悠にとって私は幼馴染み。

そうよ。

私にとっても悠は幼馴染みなんだから…

朝と同様

満員電車の中は、身動きするのも大変。

電車が揺れる度に隣にいる悠と腕がぶつかり、その時に自然と手の甲が触れる。

それだけで、なぜかドキドキする。

そんな中、お尻に当たる生暖かい感触に背筋がゾッとした。

何⁇

次第に大きくお尻を弄りだしてきた。

いやだ…

無意識に悠の腕に掴まり顔を見つめた。

うん⁇

覗き込んだ悠は私の今の状況を把握してくれたのか、スッと私の体を引き寄せ体の向きを変えてくれた。

目の前に突然現れた悠の喉仏が上下しているのわかる。

密着する距離に間を取ろうと胸に手を添えるのに悠に抱きしめられ距離が離れない。

「……ゆう⁈」

「ドアが開くまでじっとしていろ」

おでこにかかる悠の息遣いとほのかに香る悠の香水の匂いにクラクラしてくる。

でも、それも束の間。

執拗に追いかけてくる手の平に鳥肌が立ち、体が震えた。

どこから出てくるのか⁈

スカートの中に入って太腿を撫でられ我慢の限界だった。

フッと感触が消えた瞬間。

「ッ…痛い。何をするだ」

悠が叫ぶ男の腕を掴み睨んでいる。

「…わかんないのか⁈人の女に手を出してタダですむと思うなよ」

電車のドアが開いて、悠が男の腕を捕まえたまま降りていく。

私も、つられてホームへと降りると駅員さんを呼び、男を痴漢だと突き出す悠。
< 12 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop