〜その唇は嘘をつく〜
電車が到着し、乗り込むと後から後からと人が乗り込みギュウギュウ詰めになって自然と悠と向き合ってしまう。
ふわっと鼻先で香る香水の香り。
昨日と同じ香りに、やはり今日もクラクラする。
なんて言うか
媚薬なんて飲んだことないけど、まるで媚薬を飲まされたような…目の前の男の色香に逆上せたような…そんな感じ。
この匂い…好きだなぁ
…………
………………
……やばい
私、どこか行ってた⁈
この香りは、私の脳細胞、いや、全細胞をおかしくさせるんだ。
悠から香る匂い…は、ポワゾン(毒)に違いない。
だって、一瞬だけど目の前で上下するのど仏に欲情して私の頭の中は良からぬ妄想をしてしまっていた。
細身の癖に男らしい首に腕を伸ばし、上目遣いで見つめ体を密着させるように顔を引き寄せれば、悠の手がウエストに絡み私を抱き上げ色っぽく動く唇で『ゆずき』と名を呼ぶ。
その唇が、私に近づいて来るところで妄想を追い払ったけど、ドキドキが止まらない。
やっぱり、私変だよ。
「柚月⁈大丈夫か?」
「えっ…」
「昨日のこともあるからか赤くなったり
変な顔して、俺の話も上の空だろ」
「なに、それ⁈変な顔なんてしてないもん」
やだ…変な妄想してたなんて気づかれないようにしなくっちゃ。
「てっきり、変なことでも考えているかと思った」
「な、なに言ってるの。悠が考えているような変なことなんて考えてないし、ただ、悠がつけている香水の匂い…好きだなぁって思ってただけだもん」
好きって言葉に恥ずかしさが入り混じり語尾が小声になる。
「俺が言う変なことって、昨日みたいにまた痴漢にあう可能性を心配してるんじゃないかと思ってんだけど…そんな余裕あるんだ」
耳元で小声で囁く悠の声に背筋がゾクッとする。
やばい…私、もしかして自爆した⁈
「一体、お前の頭の中の俺が考えている変なことってどんなことだよ⁈」
ニヤリと笑う顔に見透かされているようで目をそらした。
「……悠が側にいてくれるから心配してないもん」
「……」
一瞬の間の後、頭上に悠の手の平がのる。
「おう、俺に守られてろ」
優しく頭を撫でてくる。
そんな動作にときめいている私ってどうなってるの⁇
なんだか嬉しくて頬が緩む。
そんな私に
『マヌケな顔』
ボソッとつぶやく悠を睨んでやるけど…効果なし。
余裕の表情で私の睨みをかわした。