〜その唇は嘘をつく〜
惑わす唇
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レンガで敷き詰められた壁
夜はダイニングバーとして昔の禁酒時代に造られた酒場のような雰囲気を醸し出す半地下の店内。
だけど…昼は、きっと
大きなガラス窓から光が入り、お洒落なカフェへと変化するのだろうと想像できる。
そんなお店
コンフォルトに就職祝いだと連れて来られた。
それもこれも、あの日
悠に会わなければこんなことにならなかったはずだ。
いや…
悠が隣に戻って来なければこんなことにはならなかった。
そうすれば、
同じ時間
同じ電車に乗ることもなかった。
そして、すでに悠からはお祝いの品をもらっていたのに、どうしてこんなことになっているのだろう⁈
2人きりで就職祝いをしてもらっているのだ。
目の前にあるカクテル
アプリコットフィズ
グラスの中で黄金色に輝く液体
レモンの輪切りにたくさんの泡がまとわりつき幻想的に漂っている。
店員との意味深な会話
このカクテルを飲みながら、私は戸惑いを隠せているかしら⁈
平静を装い
ただの幼なじみとして接している⁈
ドキドキと鳴る胸の鼓動を知られないように…
『こいつ、俺のこと好きなんだ⁈』って
絶対、思われたくないから…
たわいもない話をいくつもする。
そう…
着実に背後から魔の手が差し迫っているなんて知らずに
私は平静を装い変化していく心に蓋をした。
こんなことになるなら、2人きりになるのを避けるべきだったと後悔しても
すでに遅かった。
触れる肌に
くちびるに
心がとらわれていく…
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