〜その唇は嘘をつく〜
キラッと光る北村さんの目。
「あら、ゆずちゃんだって素敵な彼氏がいるじゃない⁈」
「あら‥北村さん、ゆずちゃんの彼氏に会ったの⁈ずるいわ。どんな感じの人?」
北村さんは顎に人差し指を当て
「一言で爽やかなイケメン…昔、ちょっとヤンチャしてた感がある雰囲気も出てて、あの目で見つめられたら反則もんですね」
「きゃー、会いたいわ」
麻里さんの興味がこちらに来てしまった。
「ち、違います。彼氏じゃないです」
「彼氏じゃなくても、そのうちゆずちゃんは堕ちるわよ。3人で話てる時にうちの主人を遠くから睨んでたぐらいなんだから、愛されてるのよ」
「愛されてないです。ただの幼なじみなんです」
「あら、幼なじみが彼氏なんて素敵じゃないの」
「だから、違いますって…」
「いいわね…幼なじみが大人になって恋愛対象として気づいて、1人の異性に見えてくると燃え上がるのよ」
北村さんと麻里さんは手を取り合って妄想の世界で盛り上がっている。
私は、否定すればするほどドツボにはまっていく感じから抜け出せなくなりそうで、無言を通すことにした。
「いつ、幼なじみから恋人に変わるかしらね⁈」
「そうですね……私の感だとこの一週間で何か進展があると思いますよ」
「北村さんもそう思う⁈」
「はい…まずはキスですね」
「幼なじみから卒業して男として意識するには、キスよね」
「麻里さんもそう思います⁈」
「きゃー、どうしましょう…」
自分のことのように顔を赤らめると北村さんと2人で私を見てからお互いの顔を見てほくそ笑む。
『「楽しみね」ですね』
おーい。
妄想世界から帰って来てください。
「そんなことにならないです」
私の戸惑う顔をもう一度見てうふふと微笑み
「さぁ、帰りましょう」
と北村さんの背を押し更衣室へ消えていった。
私の否定の言葉は無視ですか⁈
フッー…
とため息1つつき受付の電気を消して2人の後を追った。
今日も、帰りは駅まで北村さんと一緒。
「北村さんも麻里さんも私で遊んでますよね」
「うふふ、ばれてた⁈ごめんね。でもね、私も麻里さんも旦那さんは幼なじみと同級生なのよ。だから、なんとなくゆずちゃんにもその彼と幸せになってほしいのよね」
「…はぁ」
私の浮かない返事に
「まぁ、恋なんてしようと思ってできる物じゃないからね。自然とこの人だってわかるから焦らないでね」