〜その唇は嘘をつく〜
まるで、昨日の私の決意を知っているかのように微笑んだ北村さん。
「そんなもんなんですか⁈」
「そうよ。気づいたら考えるだけでドキドキするし、一緒にいるだけでドキドキが止まらなくなって、ちょっとした動作にときめいたりして」
胸の前で両手を合わせ乙女になっている北村さんの背後から男の人が現れる。
「それで、俺にキスしてきたのか⁈」
「あら、慶次……ウフフ、女はね、好きな人にキスしたくなる生き物よ…ね」
ねって、私に同意を求められても困ります。
そんなの北村さんと麻里さんだけですって…言いたい。
「じゃあ、帰ってたっぷりキスで愛情を示して貰おうか⁈」
なぜか頬を染める北村さん。
首をかしげる私に慶次さんが
「そこでまた、俺を睨んでいる彼にキスしてあげたら喜ぶんじゃない⁈」
えっ…と振り向けばすぐ背後に悠が複雑な表情で立っていた。
クスクス笑う北村夫婦。
そして、北村さんの肩を抱くと2人で頑張ってとガッツポーズをし駅の改札へと行ってしまった。
誤解ですから…
キスするような仲じゃないですから…
2人の背に向かって心の底で叫んでいた。
「さて、飲みに行くか⁈」
「………」
北村夫婦との会話、聞こえてたよね。
それなのに……スルーですか⁈
いや…スルーでいいんだけどね。
なんとなくモヤッとする。
「ゆずき…⁈」
やだ…そんな甘い声で呼ばないで…
「どうした⁇」
顔を傾げ、私の表情を伺う悠の表情はいつもと変わらない。
幻聴だ…
うん…絶対、そう。
北村さん達が変なこと言うから、悠の声が甘く聞こえたんだ。
だって…今はいつもと変わらない。
「なんでもない。どこ連れてってくれるの⁇」
「すぐそこのカフェバー。初めて柚月と行くならそこって決めてたんだ」
なんだかそんな風に言われると、初めてのデートみたいで気恥ずかしい。
並んで歩き出すと繁華街から少し離れたマンションの下に【confort カフェ&ダイニングバー】の看板
「…ここ⁈」
「うん…入ろう」
半地下になるお店の階段を下り重層の扉を開ける。
「いらっしゃいませ…2名さまですか?」
イケメンの店員さんが出迎えてくれた。
「はい」
「カウンターとテーブル席のどちらにされます?」
思わず悠の顔を見ると視線に気づいた悠が
「初めてなのでお任せします」
店員さんに丸投げする。