〜その唇は嘘をつく〜

「ご来店ありがとうございます。初めてのお客様でしたらカウンターをお勧めします。カップルなら是非、カウンターに」

ニコニコと笑顔を振りまき、手を広げ、どうぞとカウンターへ向いている。

カップルじゃないです

言いそうになる私の前に悠が立ち、あっという間に店員さんに誘導されていくから仕方なく、私も後に続いてカウンターへと座る。

「いらっしゃいませ…こちらメニューになります。お決まりになったら声をかけてくださいね」

カウンター内から、ちょっとワイルド系の顎髭を生やした笑顔の素敵なイケメンの店員さん。

ボーと見惚れてしまった。

「…………ず、おい、柚月」

「えっ…なに⁈」

「さっきから呼んでるのに、なにボーとしてるんだ」

「えへへ…ごめんね」

「……なににする?」

「悠は?」

「俺は生ビールと生ハムピザ。それから前菜盛り合わせ」

「えっ、私もピザ食べたいからビール。それと生春巻き食べたい……きゃー、これ、これ。最後にデザートプレート食べたい。いい⁇」

「いいよ。就職祝いだから好きなの食べれよ」

「本当に⁈…悠、ありがとう」

『……お礼は後でちゃんと貰うから』

ボソッとつぶやいた悠だけど、目の前に出された生ビールとご馳走に心奪われ聞き流してしまった。

ピザも生春巻きも美味しくて、生ビールを2杯お代わりして頬が熱くなる。

「美味しい…悠、連れて来てくれてありがとう」

ほんのり酔っ払っている私は、素直に悠に向かってお礼を口にする。

すると唇に触れる感触

悠が…一瞬だけ、かすめるようにキスしてきた。

思わず、唇に手を当てる。

「そんなかわいいこと言うと男はバカだからすぐ勘違いする。俺以外の奴だったらこんなもんじゃ済まないよ」

「……今、何したの⁇」

悠の言っている意味がわからない。

首を傾げていると

カウンター内で作業しながら店員さんがクスクスと笑う。

「攻略‥難しそうだね」

「えぇ…でも、必ず攻略しますけどね」

なんのことだか⁇

「じゃあ、そんな彼氏に僕からプレゼント。このカクテルは君から彼女に。……彼女は…そうだね、カクテルにも花言葉のように意味があるって知ってる?」

「いえ…知らないです」

「後でアプリコットフィズってカクテルを調べてごらん」

「今、教えてくださいよ」

(内緒)と唇に人差し指を立てウインクした店員さん。

店員さんの素敵な笑顔に頬を染め、私はちょっとだけ心奪われ見惚れていると、
その横で聞こえるようにチッと舌打ちする悠がいた。
< 22 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop