〜その唇は嘘をつく〜
いじわるな唇
お腹が満たされ、最後の冷たいデザート
がほんのり酔った頭の中と口の中をリセットする。
だから、酔いが覚めてきた私は悠がちょっとと言ってお手洗いに言ってる間に鞄からスマホを取り出してgoogleでカクテルの酒言葉を調べた。
そんな私を店員さんは横目で見ながらクスッと笑っていた気がしたけど、気になったんだから仕方ない。
カクテルの種類ってこんなにあるんだ。
アプリコットフィズ
そう…これだ。
………ん⁈
(振り向いてください)
頬が自然と熱くなる。
これって…
思わず、カウンターにいる店員さんを見つめた。
「…僕にはそう見えたけど…彼がそう思っているかはわからないよ。君は、それを見てどう思ったの⁇頬を染めるぐらいだから答えは出ているのかな⁈」
とっさに頬を両手で隠した。
うそ…私、ドキドキしてる。
悠の行動や何気ない言葉に振り回されてどう思っているかなんて私もわからないもの。
わからないからこんなに心が乱されているのに、さらに謎かけみたいな言い方をするなんていじわるだ。
誰か、教えて…
「柚月、そろそろ帰ろうか⁈」
戸惑っている間に悠が戻ってきてしまった。
チラッとカウンターの奥にある振り子時計を見れば11時を過ぎている。
「……うん」
「ごちそうさまでした」
「美味しかったです」
「ありがとうございました。この次のご来店お待ちしていますね」
店員さんの微笑みに営業スマイルだとわかっていても、素敵な人から言われると
「はい…また、来ます」
はにかみながら返事をしていた。
悠は何が気に入らないのか、席を離れ出口へと歩いて行く。
あれ⁇
支払いはしなくて大丈夫なの⁇
レジの前に立つスタッフを見ると笑顔でありがとうございましたと見送っている。
お手洗いと言って席を離れた隙に悠はすでに会計を済ませてくれていたんだ。
これが社会人なのか…
そんな心遣いが嬉しい。
重層の扉を開け外に出ると、春とはいえ外は肌寒く薄着で来たことを少しだけ後悔し、お酒で温まった体も、春風に身を縮め思わず両腕で体を抱きしめた。
「……寒」
そっと背後から体を包む何かに、寒さが和らいでいく。
それは、悠のスーツの上着だった。
悠の顔を見上げる私に
「……寒いんだろう。来ていろよ」
「ありがとう…でも、悠も寒いんじゃない⁇」
「俺は、大丈夫。気にするな」
そう言ってるくせにうなじに鳥肌が立っているので、クスッと笑いがでていた。