〜その唇は嘘をつく〜
「じゃあ、おやすみ」
悠が背を向け自宅の玄関の鍵を開ける背を見つめ、一歩も動くことできない。
そんな私に振り向き、大きくため息を吐いた。
「お前、さっきからなんなの⁇」
ネクタイを緩めながら一歩、二歩と長い足が向かってくる。
そんな姿に見惚れ後退った時には遅く、私の腕を掴み玄関に引き込んだ。
そして、拘束するように隅に追いやられ背を壁に向けドアと悠の手に挟まれ身動きが取れない。
鼓動が早くなる。
悠の空いた手の人差し指がブラウスの第一ボタンにかかりなぞるように下りて第二ボタンのところで止まる。
さらに、鼓動が早くなる。
ゴクンと息を飲み込み、ただ、悠の指先の行方を見つめていた。
その指が襟から入りネックレスを絡めブラウスの外に出した。
それは、悠に就職祝いに貰ったネックレスだった。
いつの間にか近づいいた顔の距離に、またキスされるのではと淡い期待が湧く。
だけど、肩透かしを食いその唇は私の耳元で甘く囁いた。
『これの意味がわかるか⁈』
指は、チェーンをなぞり光るペンダントトップをもてあそんでいた。
意味がわからない私は答えることができない代わりに、何度も瞬きをする。
「わかんないのか⁇」
見つめられ首を縦に振り頷いた。
何かいいかけ開いた口を閉じる悠。
何が言いたいの⁇
わかんないよ。
「なんで忘れてるんだよ」
ゾクッとするほど今まで聞いたことのない艶めく声と何か企んでいるような表情で私の左手をとると、小指を絡め3本の指の腹で優しく上下に撫で始め、くすぐったい感じが徐々に別の感覚に変わっていく。
「……やぁ、ぁ…」
どこから出てきたかわからないような甘い声が私の口から漏れた。
自分でもびっくりするほど今まで出したことのない声だった。
クスッと笑われて頬が熱くなる。
「感じた⁈」
「……」
そんなわけないと言いたいけど…全てを見透かした表情で指の動きを止めるつもりはないらしい。
ぐっと唇を噛み締め、声を我慢する私を楽し気に見ている。
しだいに、小指から薬指へと変わるも欲情的に動く指先の腹の動きは変わることがない。
逃げようと身をよじるけど、ぐっと足の間に悠の膝が入り動くことを阻止された。
「……ねぇ…んっ……ぁ…」
「なに⁇」
「……ど、どうして…ぁ、こ、こんなことするの?」
「どうしてだろうねぇ…」