〜その唇は嘘をつく〜
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モヤがかかった夢の中
小さな私は男の子と手を繋いで歩いている。
射的場に光るキラキラしたオモチャのネックレス。
『・・・ちゃん、あれ、ほしい』
『ゆずの為にとってあげる』
『ほんとうに⁈』
『待っててね』
パン、パン
空気鉄砲の音が響く
『わぁ〜すごい、じょうずだね』
拍手してピョンピョン跳ねる小さな私
『はい』
『ありがとう‥……ちゃん、だいすき』
男の子に抱きつく小さな私
『ゆずき、かわいいな。いつかほんものをあげるから待ってて』
『うん』
『その時は………………やくそくだからね』
指切りをする幼い2人
…………
……
…「ゆず…起きなさい」
外の騒がしい雑音と母の声で目が覚める。
いったいなんなの⁈
カーテンを開ければ、隣の家に見たことのない黒塗りの外車が駐車してあり、引っ越し業者が車から荷物を運んでいる所だった。
えっ…
ドタドタと階段を下りると母のいるリビングへ
「隣、誰が来たの⁈」
「なに寝ぼけたこと言ってるの。悠くんよ…こっちに戻ってきたんだってよ」
「なんで⁇社会人になっても独り暮らししてたじゃない」
「さっき挨拶に来た時、家賃が高いからって言ってたわよ。しばらく見ない間に男らしくなってさらにかっこよくなってたわね」
最後にハートマークが飛んでいるんじゃないかと思うぐらい語尾が甘ったるくあがる母にチッと聞こえない程度に舌打ちした。
幼い時に隣の悠くん家族と一緒に露店巡りをした時の夢
あの頃は、まだ大好きな隣のお兄ちゃん
だった。
それが、いつの頃からか苦手な存在になってしまった。
悪夢だ……
悠が隣からいなくなって
平穏な毎日だった。
それなのに…なぜ、いまさら戻って来たのだろう⁈
母に話した内容を思い返しても、素直に納得できない。
だって、気楽な独り暮らしをすててまで戻ってくるメリットがあるのだろうか⁈
まぁ、お互い社会人だし通勤時間、通勤場所が違えばそうそう会うこともないだろう
うん。
そうだ
絶対、会わない。
そう、自分を納得させた。