〜その唇は嘘をつく〜

「あっ、あれがいいわ」

服を着たマネキン目指して駆け寄る楓。

やっと決まった。

歩き疲れてピークに達している私は、ホッとする。

だから、どんな服かもわからないまま更衣室に押し込められた。

フロントスタイルでゴールドのラメ入りブイネックの襟元にフェイクパールをあしらい下はニット素材で女性らしさを出しているスタイルワンピ。

でも、丈が短いよ。

腰周りを覆うタイトなワンピの裾を一生懸命に伸ばすけど…伸びるわけがない。

「ゆず…」

また、楓が人の返事も確認せずにドアを開ける。

「……うん…いい。そのヒールにも合うし似合うわよ。後は、化粧をしてもらって髪は…そうね…後ろでアップもいいし、そのままおろしてるのもいいわね。でも、やっぱりうなじを見せないと…」

最後はブツブツと独り言だった。

先ほどのように、買ったばかりの服を着て会計を済ませると次は化粧品売り場。

楓の企みが何なのかわからないけど…
もう、こうなったらなんでも来い。

「すみません…その春の新作欲しいんですけど、この子にお化粧してもらえませんか?」



「もちろんいいですよ。どんな感じになさりたいですか?」

「そうですね…そのワンピに似合うように小悪魔的にお願いします」

「……」

小悪魔的ってなに⁇

「クスッ…これからデートかしら⁈」

「ち、『そうなんです』」

楓の声が否定する言葉を止めた。

えっ…私、デートなの⁇

困惑する私をおいて、楓と店員さん2人でどんどんと決めていく。最後にリップを塗られ

「はい…小悪魔メークの出来上がり」

「さすがプロですね…私、アイシャドウとリップ買います」

「ありがとうございます」

楓は、私をモデルにして自分用に買い物をしたのだ。

「うふふ…いい物買ったわ」

「私を出しに使わないでよね」

「いいじゃない。きれいにメイクしてもらえたんだから文句言わないの」

「もう…」

楓を睨んでも効果なし。

「ほら…パウダールームへ行くわよ」

「……」

大きな鏡の前に立たされ、楓が私の髪を触る。

後ろで簡単に髪を束ねバレットで留めて毛先を遊ばせて出来上がり。

「……うん…これで落ちないなら悠さんの目は節穴よ」

「もう…いったい何企んでるの?」

「仕掛けるのよ」

「今日じゃなくてもいいと思うけど…」

「何言ってるの…思い立ったが吉日っていうでしょう」
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