〜その唇は嘘をつく〜



木曜日


「待って、行かないで〜」

駅のホームを猛ダッシュ
飛び乗った瞬間に電車のドアが閉まった。

髪を振り乱して私は手すりにつかまり前屈みでゼェ〜ゼェ〜と空気を吸い込む。

「ゆず…ギリギリだったね」

「……寝坊したから久々に全速力で走ったわよ。これに乗れなかったら完全に遅刻なんだもの」

「ふふふ、社会人1日目にして寝坊するなんて原因はなんなの⁇」

そうよ…
寝坊の原因は同じ車両の奥で私を小馬鹿にして見ているあいつのせいなんだと叫びたい。

だけど…

「なかなか寝つけなくて、遅くまで起きてたんだ。そしたら二度寝して今に至るって訳です」

「ゆずらしくないわね。どうせ、ここで言えないことなんでしょう⁈」

「……」

苦笑して頷くしかなかった。

それもこれも
山城 悠
3歳年上の幼馴染みのあいつのせいなんだ。

悠の両親は、昨日から結婚25周年だとかで数日留守にするらしく、私の母に息子の面倒と家をお願いして旅だって行った。

隣の夫婦は、昔から何かの記念日とかでちょくちょく旅行に行く。

その度に女を連れ込んでやっちゃってる男を軽蔑の眼差しで睨みつけてやる。

私達の話を近くにいて聞こえている癖にそれでも知らぬ顔で平然としているからムカつく。

悠は中学時代から女にもてまくっていて、高校生になったぐらいからあの部屋から女のなんとも言えない艶かしい聞こえてくるようになった。

家が隣だけってだけじゃなく、お互いの部屋が隣り合わせなのが悪い。

窓を開ければ、すぐ悠の部屋の窓に手が届くのだ。

だから、聞きたくなくても築年数が古い住宅だからか窓を閉めていても聞こえてくる。

昔に1度だけ偶然登校が重なった時に悠に注意したことがある。

『おじさん達がいない時に悠の部屋からきみ悪い声が聞こえてくるんだけど…
なんとかならない⁈』

『きみ悪い⁇いい声の間違いだろう⁈てか、毎回、隣で聞いてるなんて悪趣味だぞ』

『…はぁっ、毎回⁈…隣の部屋だし、たまに聞こえてくるんだからか仕方ないじゃない』

『…耳栓でもしてろ』

『なんで私が…隣に住んでる私の身にもなってよ。やるならよそでやってきて…』

『ガキのくせに…お前こそ、俺の身にもなれ』
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