〜その唇は嘘をつく〜
シャワー終え髪を乾かした私が体にタオルを巻いて浴室から出ると、上半身裸でスウェット姿の悠がボサボサの頭でソファに座りタバコを吸っていた。
「…起きたの」
「……あぁ、俺もシャワー」
ボーとしながら浴室に消えていく。
その間に、下着を着て昨日脱がされた服に袖を通したけど…
ダメか…
ショップバッグから楓に着替えさせられた服に着替え直した。
ホワイトジーンズにチェニックシャツは、仕事に着ていくような服装じゃないのかもしれないけど…
あのワンピースじゃ隠せない。
鞄からメイクポーチを出して、最低限のメイクをする。
「道、わかんないだろう⁈途中まで送って行くから近くで朝食食べよう…待ってて」
浴室から出てきた悠は、濡れた頭をタオルでガシガシと拭き私の頭を撫でると着替えをしに寝室に入って行った。
そう言われたら素直に待つ私。
5分でも1分でも…最後の1秒まで一緒にいたいと思うなんて…
昨日までの私だったら考えられない行動だと苦笑してしまう。
「お待たせ」
白いシャツにデニム姿だけなのに、見惚れてしまう。
「ほら、行かないと朝食も食べずに遅刻だぞ」
鍵を持ち玄関先ですでに待つ男に催促されて、我に返って玄関に駆け寄る。
「…」
そんな私を抱きしめ微笑むとチュッと唇に触れるキスが落ちてきた。
「…もう」
「…道端でしたら怒るだろう⁈」
「当たり前です。したら口聞かないからね」
照れ隠しにツンケンしてしまう私。
「ふふふ…ツンデレの柚月もかわいい」
ぎゅっと抱きしめた手に力が入り、今度は濃密に唇を塞いだ。
そんな悠の背に手を回し、キスを受けている私もどうかと思うけど…触れた唇が愛しくて離せない。
翻弄するだけ翻弄して、スッと離れる唇が恨めしく思える。
だって、広角をあげ勝ち誇る悠が笑みを浮かべているから…
「1人で大丈夫だから送ってくれなくていい」
意地を張ってしまう。
「ゆずちゃん…機嫌なおして一緒に行こう⁈」
指を絡め取られ繋ぐ手に引かれ、口を尖らせたまま悠の部屋を後にした。
朝早くからオープンしているカフェで、軽い朝食とホットコーヒーを悠と窓際で済ませていると
あれ⁈
「楓ちゃんと溝口さんだ」
腕を組んで仲睦まじく歩いている。
「話してくれるまで見なかったことにしようね」
「だね」
2人で同時に微笑んだ。