〜その唇は嘘をつく〜
こんな時間にお父さんがいるなんて珍しい。
「おっ、やっときたな。悠くんこっちに来て一杯飲みなさい」
「はい」
コップを持ち、お父さんにビールを注いでもらう悠。
「…何なの⁈何があったの?」
「お前達の婚約と結婚式の打ち合わせだよ」
「はい⁇」
悠の顔を見ると確信犯だと気づいた。
だって
私と視線を合わせないんだもの。
「…私、結婚しないわよ」
「えっ…」× 4人
驚くお互いの両親
だけど、悠はいたって冷静だ。
「どう言うことだ…まさか、柚月は悠くんをふったのか?」
お父さんが悠の襟を掴んで体を揺らす。
「…いいえ」
「それならどうして結婚しない⁈」
「結婚とか婚約とか、まだ考えられない。働き始めたばかりだし、悠とだって始まったばかりなんだよ」
「結婚しても働けばいいじゃないか」
「お父さん、私の気持ち考えてよ。そういう問題じゃないの」
「2人とも落ちて」
言い争いを始めたお父さんと私を止めたのは悠だった。
元はと言えば悠が悪いんだから…
悠を睨む。
だけど、素知らぬ顔に苛立つ私。
「おじさん…僕の気持ちは変わらないです。柚月が結婚してもいいって思うまで
待ちます。でも、もう別々に暮らすなんて無理なんです。…俺のマンションで一緒に暮らすことを許してくれませんか?」
「許すもなにも…いいに決まっている。なぁ、お母さん」
「えぇ、柚月の旦那様は悠くんしか考えなれないもの」
「そうよ。悠のお嫁さんは柚月ちゃんだけよ。他の子なんて認めないんだから…」
悠⁈
あなたは一体、お互いの両親に何を言ったの⁈
私の前に立ちお互いの両親の前でポケットから指輪を取り出す。そして、私の左手を取ると薬指にリングを入れた。
「柚月、結婚を前提に一緒に暮らそう」
「……」
返事をしない私。
8個の期待に満ちた目に負ける。
「…わかった。一緒に暮らすわよ」
歓声をあげる両親。
親公認の公開プロポーズと同棲宣言だ。
もう、後には引けない。
両家は再び宴会を始めた。
そんな両家を尻目に悠は楽しそうにしている。
もしかして⁈
結婚よりこれが狙いだったりして?
まさかね……
「一緒に暮らしたかっただけ?」
「…どうだろうね⁈」
悠は広角をあげ笑う。
そうなんだ…
ジワジワと囲いを埋められていたんだ。
でも、すぐに結婚してあげない。