〜その唇は嘘をつく〜
学生時代編
お互いひとりっ子同士
親も共働きだった為か俺が小学生の間まで、柚月はずっと俺の側にいた。親は俺を柚月の兄のようだと微笑ましく笑う。
幼稚園児だった時も、登校する俺を玄関先で『悠ちゃん、おはよう。行ってらっしゃい』って見送ってくれて、下校して帰って来ると『おかえり』って言って出迎えてくれた柚月。
柚月が小学生になれば、登校も下校も、その後の放課後もずっと一緒だった。
俺の後をついて来る。
学年が上がる度、少しずつ遠慮が出てきて『悠ちゃん、遊んで‥』から『悠ちゃん、一緒に遊んでくれる?』そして『悠ちゃんのお友達と柚月も遊んでもいい?』に変わって言った。
柚月を側に置きたい俺は、いつも
『いいよ。一緒に遊ぼう』
と言って
近所の悪友
大也といつもつるんで、柚月を連れて遊び回り、時たま、大也の妹‥美雨も混ざって遊んでいた。
側から見れば妹みたいな存在のふたり
どちらも可愛くてしかたない存在だけど、5つ離れた大也の妹は、血が繋がっていなくても本当の妹のような存在で愛しい。
血が繋がっていない分、どんなワガママも可愛くてお姫様扱いだった。
そんな美雨の存在が面白くない柚月は
『美雨ちゃんにはお兄ちゃんいるでしょう。私の悠ちゃんに近寄らないで‥』
といつも半泣き。
ヤキモチを妬く柚月のそんな姿がいじらしくて、余計に美雨をお姫様扱いし、柚月の気を引いていた。
そして、機嫌をとることも忘れない。
帰宅するふたりの時間
『柚月、手を繋いで帰ろう』
『うん』
それだけで、ご機嫌になる柚月。
どんなに美雨が可愛くても手を繋ぐことはしない。
柚月以外の他の誰とも繋がないって柚月は無意識にわかっている。
俺が手を繋ぐのは、柚月だけだとわかっているんだ。
そんな特別感をいつも柚月に味わせる。
ふたりきりになれば、俺は柚月だけを見て柚月を可愛がり、女の子の遊びでも嫌な顔せず遊んであげれば…
『悠ちゃん大好き」
と言って微笑んでくれる。
だから俺もここぞとばかりに
『僕も、大好きだよ』
子どもなりの愛の言葉を伝えた。
それな俺を柚月の親は、優しい隣のお兄ちゃんと認識している。
俺の邪な考えだと知らないで…
『悠くんが、柚月のお婿さんになればいいのにね』
そう思わせる事が狙いだと気づかないお互いの母親は夢を見る。
小学生の間は、これで良かった。