〜その唇は嘘をつく〜

排除か…

それはいい提案だ。

(柚月は、僕が守るんで安心してください)なんて言おうものならこいつこそ真っ先に排除していた。

瑛斗は、俺に憧れているらしい。
だから、俺の為なら…

思惑通りに柚月に近づく奴は、いなくなった。

なんでも、『柚月には、中学生の彼氏がいる』そんな噂話を瑛斗が流した。

その話には、尾ひれがつき…
柚月にちょっかいを出したら山城先輩(俺のことだが)に目をつけられる。
イコール
殺られると広まった。

小学生の子どもにはこうかてきめん。

しばらくは、安泰だと思っていた。

だが、別のところから俺たちの関係が壊れていった。


女子からの手紙やメールでの告白はたまにあった。
でも、俺には柚月しかいないから、それらは柚月にヤキモチを妬かせる道具として利用させてもらっていた。

そして…毎年、バレンタインのチョコは柚月からしかもらわないという約束をすれば頬を染め喜んでいた。

『私、頑張って手作りするね』

『楽しみにしているよ』

それなのに…
あれは、忘れもしない。

中3の冬


《俺はチョコを受け取らない》

女子の間で有名な話のはずなのに、バレンタイン当日、1人の女が俺の家までやってきて……

全てが変わった。

『山城くんがチョコを受け取らないのは知ってる。だけど…私、山城くんが本当に好きなの。付き合ってほしいって言わないからチョコだけでも受け取ってほしいの』

涙を流し、その場から離れようとしない。

もうすぐ、柚月が来るかもしれない時間なのに…玄関先でハタ迷惑な話だった。

だから、彼女の肩を掴んで追い払おうとしたその瞬間、柚月がチョコを持って現れた。

『悠ちゃん‥チョコ持ってきたよ』

満面の笑みが…壊れるまで30秒程

女は、笑顔を浮かべ俺の手にチョコを掴ませ

『チョコを貰ってくれてありがとう』

悪意を感じた。

柚月は、俺が小さな時にあげたオモチャのネックレスを首から引きちぎり

『悠ちゃんの嘘つき…悠ちゃんなんてきらい。大嫌い』

叫んで、投げつけた。

壊れていくつものビーズが転がり落ちている。

それは、まるで俺たちの関係も修復できないっと言っているようだった。

すぐに、柚月を追いかければ良かったのかもしれない。
だが俺は、女からのチョコをその場に放り投げ、女を無視してビーズを拾い集める。

これをなおして柚月に事情を説明しようと必死だったんだ。
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