〜その唇は嘘をつく〜
『何が…⁇』
『早く、大人になれ…』
『女誑しの悠ちゃんなんてきらいよ』
聞こえるか聞こえないぐらいの声でつぶやいた。
苦笑いをする男がポンと私の頭に手を添えてさっさと歩いて行ってしまった。
その男と再び再会してしまった。
悠は大学進学の為に他県に行っていたが就職は地元に戻ってきていたらしい。でも、仕事の都合とかで家に戻らず独り暮らしを続けていたくせに数日前から隣の家に戻ってきた。
そして、なぜかお隣の夫婦が旅行で留守の間、悠は晩ご飯を私の家で食べることになっていた。
久々に会う悠は、社会人らしく大人びて物腰も落ち着いて更に素敵に見えた。
目の前に座るから余計にドキドキして悠の顔を見れない。
だから、母と話してる悠の口元を見るだけで視線を合わせれなかった。
私は早く自分の部屋に引きこもりたくて向かい合わせてご飯を食べていても、黙々と目の前のおかずに集中して次々と口に運んだ。
私は、高校を卒業すると目的もないまま大学を卒業し、求人を募集していた病院の事務として今日から就職する。
そんな話を母が悠に報告しているが、悠にすればどうでもいい内容だろう。それを笑顔を浮かべ大人の対応で聞いていた。
『柚月は、何時の電車で通うの⁈』
突然、話を振られ
『…8時』
『俺もその電車に乗るけど…駅まで乗せて行ってやろうか?』
2人きりなんていやだ。
…駅まで数分だろうが無理
『自転車で行くから無理』
乗せてもらえばいいのにと母は言うけど、(外面のいい悠しか知らないからそんなこと言えるのよ)と心の奥で毒吐く。
私は、早々に部屋に引きこもり明日の為に準備をして早めに寝ようとしていたのに…
コンコン
部屋のドアを叩く音
「…ゆずき」
先ほどまで会話していた優しい声と違い、低く威圧的に私の名前を呼ぶ声にドアを開ける。
「何⁇」
「俺さ、お前に何かしたか⁈」
「別に」
「それじゃ、さっきからその態度はなんだよ」
だって、苦手なんだもの。
だから、緊張して悠と視線を合わせられないんだから…
私の態度にイラついて眉間にシワを寄せ睨んでいるのが視界に入るけど、私は話す度に動く悠の魅惑的な薄い唇をただ、見つめていた。
「そんな顔するな。まぁいい…やるよ」
そう言って私の左手を取ると手のひらに赤いリボンのついた小さな細長いボックス。
これって…
リボンには有名な某ブランドのマークがついている。
言葉も出ず、箱を見つめている私の頭を撫でると背を向け階段を降りているその背に向かって
「…ありがとう」
そう言うのが精一杯だった。
リボンを解き、ボックスを開ければ石のついたプラチナネックレス。