〜その唇は嘘をつく〜
柚月に背を向けた後
『ありがとう』
…俺にありがとうって言ってくれた。
頬をスーと流れる一粒の涙。
昔に戻ることはできないが、俺は会わなければならない女がもう1人いた。
杉本 美幸
柚月を傷つけ、全てを彼女のせいにして別れも言わずに卒業し、数年ぶりに彼女を呼び出した。
誰にも見られたくないから、彼女の車の中で話合う。
相変わらず、甘ったるい匂いと声、男に媚びる姿は変わらない。
『久しぶり…』
『久しぶり…私のこと覚えていてくれて嬉しい。悠くんに会えなくなって寂しかった』
俺の手を握り、上目遣いに誘う。
だが、もう関係を持つつもりはなく前に進む為にはっきりとさせたかった。
『俺は、別に会いたくて連絡したんじゃない』
『えっ…』
連絡をもらって期待していたんだろう。
柚月じゃなければ、ここまでも非道な言葉を浴びせれる。
『お前に確かめたかったことがある。中学の時、あの時間にワザとチョコを持ってきたんだよな。柚月があの時間にくるってわかっていて、目の前で俺に握らしたんだ』
『……ふふふ…知ってたんだ。それなら私のチョコを放り投げ、オモチャなんかのネックレスのビーズを拾い集めるあなたを見ていた時の私の気持ちがわかる?』
『わからないね』
『そうよね。いつだって悠くんにはあの子しか写っていなかったんだから…2人の仲が壊れればいいって願ってた。そうしたら、願いが叶ったの。だから、あなたのことも手に入れられると思って近づいた。でも…』
『お前を柚月の代わりに抱いていただけだ。全てを壊された原因だと腹を立てお前のことなんて考えてもいなかった』
『そんな私に何のようで呼び出したの?』
『俺は、柚月とやり直して今までのギクシャクしていた関係を元に戻す。お前には、邪魔をさせないから忠告だ。邪魔をしたらタダじゃおかない』
『そんなことを言うためにわざわざ呼び出すなんて暇人ね。私が、あなたをまだ好きだと思っているの⁈』
『どうかな⁈お前のことは好きになれなかった。だが、俺のはけ口にお前を利用してお前を傷つけたと思っている。すまなかった…』
『謝らないで…私はどんな理由でもよかった。彼女よりあなたの側にいられるならって、どんなことだってしたんだもの…あなたの部屋で彼女に聞こえるように声を出していたのも、彼女に嫌悪感を与える為よ』
『……やっぱり、そうだったか』
『気づいてたんだ…』