〜その唇は嘘をつく〜

『あぁ…』

『安心して…もうあんな真似はしないから』

……………………

車は、俺の家の前に止まる。

『じゃあな…』

車を降りると駆け寄ってきた彼女は俺の背にしがみついた。

『好きだったわ』

『好きになれなくてごめん』

振り向く俺の唇に潤んだ瞳した彼女がキスをして去って行った。

ズキッと胸が痛んだ。

柚月の部屋を見れば、カーテンが揺れていた。

見られたか…

明日は、平静を装えるだろうか⁈

朝、駅に向かって自転車をこぐ柚月を見つけた。

声をかける事に躊躇いそのまま車で通り過ぎてしまう。

俺は、まだ何を迷っているんだ…
短期決戦だろう⁈柚月を他の奴にとられていいのか⁈

やると決めたなら迷うな…

自分にゲキを飛ばす。

そして、偶然会った大也に決意表明して自分を追い込んだ。

時間ギリギリの柚月が乗る車両に目星をつけ、乗り込んで来るのを待つ。

髪を振り乱しなんとか間に合った柚月をからかう。それにのっかって大也も柚月をからかう。

昔、俺の後を追って遊んでいた頃を思い出してくれないだろうか⁈

柚月の友達、楓も偶然乗り合わせ大也のイケメンぶりに頬を染め会話を広げようとするが大也の素っ気なさに撃沈。

知り合いに囲まれ柚月の警戒も和らいだ
このチャンスをいかしてもうひと押し。

『こんな可愛い子と知り合いになれた記念に今度飲みにでも行く⁈』

大也が断るのは想定内。だが、その言葉を待っていたとばかりに柚月の友達は乗り気だ。

拒絶の目で俺を睨む柚月に

『そうか、柚月も賛成か』

唇を噛みひと睨みされるが…そんな事で引き下がれるか。

強引でもなんでもいい。

俺に心を許してくれるならどんなことでもする。

例え…それが卑怯な方法だろうと…

ツンケンしながらも俺と会話してくれる柚月が嬉しくてテンションが上がったのに…

『興味ないもん』

グサッと胸に突き刺さる。

『……少しは、興味持ってくれよ』

『どうして、女誑しに興味持たないといけないの⁈』

『女誑しって…ひどくねぇ』

『事実じゃん。昨日も女の人と帰って来たじゃない』

俺のこと少しは気になってるのか⁈
お前はヤキモチじゃないと否定するけど…今、自分がどんな顔しているかわかってないよ。

『柚月の目がそう言ってる』

『ばっかじゃない…』

ほら…その顔は、美雨に嫉妬していた時と同じ顔だよな…
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