〜その唇は嘘をつく〜

『まっ、わからないならいいんだけどね
…とりあえず、彼女とは後腐れない関係」

『……サイテー』

サイテー⁈…なぜ?

ずっと心の奥に引っかかっていたもの…昨日やっと、後腐れなくすっきりと終わらせたのに。

なんだ?何がいけなかった⁈
ボー然と立ち尽くしている間に、柚月はいなくなってしまった。

なんとかしなければ…
今日中に。

一日中、訳がわからず悶々として過ごし
仕事が終わったと同時に、急いで駅に向かい柚月を待ち伏せる。

だが、男が近づいて話しかけると柚月も楽しそうにしている。

そんな顔、俺に見せてくれないのに…

1人になった柚月に腹立たしい気持ちをぶつけてれば、

『やばい、乗り遅れるよ』

俺の腕を引っ張り急ぐよう催促し、掴んだ腕はそのまま。

そんな仕草に全てがどうでもよくなってしまうなんて…

掴んでいることに気づいて離れてしまう手に寂しさを感じる。

小さな時は、当たり前のように手を繋いでいたのに…感傷にひたっていると柚月が…おどおどし腕にすがりついて今にも泣きそうな表情で見つめてくる。

まさか⁈

スッと柚月を引き寄せ腕の中に囲み、まわりの様子を伺いながらまたとない好機とほくそ笑む。

ポケットからスマホを取り出し、決定的瞬間を撮ると同時に男の腕を掴んだ。

『…人の女に手を出してタダですむと思うなよ』

チャンスを与えてくれた男だが、俺の柚月に触ったんだ…許されると思うなよ。

まさか…柚月が痴漢した男を許すなんて思いもしなかったから、消化できない怒りだけが残っている。

『社会人初日で痴漢にあう柚月ってどうなの⁇』

『どうって言われても…』

壁際に追いこみ鼻先が触れそうな距離に詰め寄ると目を閉じる柚月の唇が、少し開く。

まったく、この子ときたら…無意識に誘惑しているのか?
(スキがありすぎだ)デコピンした。

『そうやってスキがありすぎだから付け入れられる。俺が側にいてお前を守ってやるよ』

お前を側におけるならどんな理屈だって
ついてやる。

痴漢された事は予想外だったが、信頼を回復するのに利用させてもらった。俺に対する柚月のわだかまりを柔軟させるには最適だった。

だがもう二度と、俺以外の奴に触らせたりするものか…

さぁ、次はどんな手を使おう⁈

柚月のなかを俺だけで埋め尽くすには…どうすればいいんだ?

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