〜その唇は嘘をつく〜

そんな私に気づきもせずに人混みを擦り抜けて近寄ってくるから、下を向いてやり過ごそうとしたのに頭を撫でてくる。



「必死に自転車をこいでる柚月を追い越した時には間に合うか心配してたんだけど、間に合ってよかったな」

視線を上げれば、心配してた口ぶりの癖に可笑しそうに笑っている悠と視線があった。

ふと、昨日の夕食時の会話が頭の中を過る。
車に乗せてもらう事を拒んだ仕返しなんだ。

だって…

「こんなに髪が乱れて、山姥みたいだぞ」

微笑みとともに堂々と毒吐くんだから…

「山姥みたいって…ひどい」

「そうだぞ…山姥はひどい。せめて雪女ぐらいにしたらどうだ」

いや…
それもどうかと思いますけど……

横やりを入れてきた男を見れば、見たことがある顔だった。

確か…

「…あっ、大也さん」

「あれ、もしかして今気づいた⁈」

あははは〜

笑ってごまかした。

そんな、私の脇腹を突っつく楓。

「あの…ゆずとお知り合いですか⁈」

「あぁ、ごめんね。俺は、柚月とは幼馴染みなんだ」

「そうなんですか⁈こちらは⁇」

悠にあいづちをうちながら、隣にいる大也さんを見ている楓。

あれ⁈
もしかして…楓が言っていたさっきのかっこいい人って大也さんのことかな⁈

どこかホッとしている私。

「おれ⁈…俺はこいつの幼馴染みってとこかな」

悠をちらっと見る大也さん。

「それじゃ、ゆずとも幼馴染みなんですよね⁈」

「…うーん、ゆずちゃんとは顔見知りってとこだね」

「そうなんですか…⁈」

上目遣いで語尾が上がる楓。

「私、ゆずとは高校からの親友で小浦 楓っていいます」

「…そうなんだ」

グイグイといく楓に苦笑する大也さん。

「こんな可愛い子と知り合いになれた記念に今度飲みにでも行く⁈」

はぁっ

やめてよ。

その口を閉じてと悠の顔を睨む。

「そうか、柚月も賛成か」

いやいや…

賛成していないから…拒絶しているのわかってるよね。

「いつにします⁇」

楓が可愛らしく微笑む。

私が視線で訴えているのに意地悪く笑みを浮かべているから腹立たしい。

絶対、昨日のこと根に持ってる。

「そうだね…大也はいつがいい⁇」

「…勘弁してくれ…大学病院の研修があるし、そんな暇ないよ」

「そうなんですか⁈…残念です…」

そうか⁈
大也さん家は、歯医者だった。
跡継ぎだもんね。

一気にテンションの下がる楓。

ごめんねと大也さんは申し訳なさそうに言ってるけど…そんなふうに見えないのは気のせいかしら⁈
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