〜その唇は嘘をつく〜
「それじゃ、もう一人俺が連れてくるから明日なんてどう⁇」
パァーッと表情が明るくなる楓に大也さんも悠も現金な奴と笑った。
そう…
こんな素直なところが男心をくすぐるのか憎めないのかわからないけど…楓の魅力の1つなのだ。
初対面なのに、ものの数分で打ち解けてしまう楓と悠に心の奥底が騒つく。
どうして、私はこんなに不安がっているの⁈
理由がわからない。
そんな自分が腹立たしい。
仕事場のある駅のアナウンスが車内に響く。
一駅向こうで降りる楓と大学までまだまだの大也さんに別れを言って降りると悠も降りてくる。
「……悠も、ここの駅なの⁇」
「あぁ」
「ふーん…それじゃね」
駅の改札を通り別れを告げ歩き出したのに、悠は私の隣を歩く。
「……ねぇ、隣歩かないでよ」
「同じ方向なんだから一緒に行こうぜ」
「なんで⁈」
「はぁ〜、お前、俺がどこで働いてるのかも知らないんだろう⁇」
「興味ないもん」
本当は知ってるけど…
昨日の母と悠の会話
確か…外車のディーラーだったよね。
「……少しは、興味持ってくれよ」
「どうして、女誑しに興味持たないといけないの⁈」
「女誑しって…ひどくねぇ」
「事実じゃん。昨日も女の人と帰って来たじゃない」
「あっ、見てたんだ。それ…やきもち⁈」
「はぁっ、どうしてやきもちやくとかの話になるのよ」
「柚月の目がそう言ってる」
並んで歩いてるのにどうしてわかるのよ
「ばっかじゃない…」
そんな訳ない…
自分でさえ、この訳のわからない感情に動揺しているのに悠にわかる訳がない。
「まっ、わからないならいいんだけどね
…とりあえず、彼女とは後腐れない関係」
「……サイテー」
大声で叫んで悠を睨みつけると早足で悠から離れた。
さすがに、悠も追いかけてこない。
なんなの⁇
幼い頃は、あんなに大好きなお隣のお兄ちゃんだったのに…いつから、幻滅するようになったの⁇
そうよ。
この訳のわからない感情は…
かっこよくて優しい私だけの大好きなお兄ちゃんだったのに、女誑しになってしまったから…
私は、悠に幻滅しているんだ。
いつまでもあの幼い頃のままお兄ちゃん離れしていないからこんなにイライラしているんだ。
そうでないとこの訳のわからない感情の理由がわからない。
私に彼氏ができれば、きっと、悠のことなんて気にならない。
よーし…
悠より、かっこよくて女誑しじゃない誠実で優しい彼氏見つけるぞ…
自分で納得する答えを見つけ出し、恋をしようと決意した。