〜その唇は嘘をつく〜
命令する唇
私が今日から勤める病院は、101ビル内にある内科病院(有村内科クリニック)
ちょっと、電車で通うには遠いけど…
一人暮らしするにはお金もないから…
片道30分ぐらいならと家から通う事にした。
院長室
「今日からよろしくお願いします」
「よろしくね」
「もう少ししたら北村さん来られるから
引き継ぎしてもらってね」
内科医の有村先生は、40歳後半ぐらいのダンディなおじさまって感じ。
看護師の有村先生の奥様、麻里さんも少しぽっちゃりとして可愛らしい女性だ。
求人を募集していた理由は、面接にうかった時に受付いた女性、北村さんが妊婦さんで退職するからだった。
「はい」
「それじゃ、診療時間まで簡単に説明するわね」
「お願いします」
院長室を出て麻里さんから説明を聞きながら院内を回る。
「うちは、いくつもの会社が入ってるビルにあるでしょう…だから9時から19時まで診療時間なんだけど…お昼時間を利用して患者さんが来るから1時から3時が私達のお昼時間になるけど、大丈夫かしら⁈」
「はい…大丈夫です」
「そう、良かった。たまに早めに休憩時間を用意するからそこは大目に見てね」
可愛らしくウインクするお茶目な麻里さん。
「それで、まず出勤したらしてほしい事は玄関掃除とトイレ掃除。院内は私がするから大丈夫なんだけど、受付の周りと待合室だけお願いね」
「はい」
「そんなに緊張しないで…主人も私もゆずちゃんが来てくれて嬉しいんだから…仲良くしましょう」
ポンと肩を優しく叩く麻里さんのおかげで肩の力が抜けていく。
返事の代わりに微笑んだ。
「うん…その笑顔よ。患者さんにもゆずちゃんの笑顔で癒してあげてね」
笑顔で癒すって⁈
その時は、麻里さんが言っている意味がわからなかった。
そこへ
「遅くなってすみません」
大きなお腹をした北村さんが出勤。
「いいのよ。妊婦さんには通勤ラッシュは大変だもの。後、数日お願いね。そうそう、今日からゆずちゃんも仲間入りだから引き継ぎと手順教えてあげてね」
「はい。私は北村 莉緒って言うの。数日だけだけどお願いね」
「こちらこそ、お願いします」
一週間ほど、北村さんから教わったら彼女は退職するらしく…私一人で事務と受付をこなさなければならない。
大きな病院と違って患者数が少ないから慣れてくれば一人でも大丈夫らしい。