朝、きみと目が合って
6月15日(月)
午前六時二十七分発向田行きの三両目、進行方向寄りのドア付近に寄りかかる。
それが私、瀧本真衣のいつもの習慣。

発車ベルが鳴り、扉が左右両側からゆっくりと閉じられる。

電車が揺れ始め、ドアのガラス窓から見える駅のホームが途切れたら、続いて視界に入ってくるのは五階建ての古びたマンション『ラヴィアンローズ』。
そこの五○三号室は私の住処だ。


元々朝にめっぽう弱い私は入社一年目、遅刻魔だった。
これじゃいけないと通勤が片道一時間強かかる実家を出て、ひとり暮らしを始めることにした。

物件の希望としては、とにかく会社と駅から近いこと。
できることなら会社から徒歩圏内に住みたかったけど、さすがに家賃が高くてあきらめた。

家賃が許せる範囲内でとことん駅チカ、というわけで会社から電車で二十分の松屋駅真横にある『ラヴィアンローズ』に決めたのだった。
おそらく、走って三十秒もかからない距離だ。

築三十年だけあって外壁には大きなヒビなんかが見られたものの、室内は意外と綺麗に保たれていたし、何より家賃が三万五千円と破格だった。


それから住み始めて早三年、気づけばもう二十五歳になり少しは成長したのか、最近ではめっきり遅刻しなくなった。

それどころか、六時台の電車に乗るのがちっとも苦にならなくなっている。

きっかけは満員電車にうんざりしていた、入社二年目。
たまたま早くに目が覚めて、いつもより二本早い電車に乗った。

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