朝、きみと目が合って
私はその姿を知っている。
毎朝、目が合うあの男性だった。

同じマンションの住人だと知っていても、まさかこんな屋上で、いつもよりずいぶんと近い距離で顔を合わせることになるとは思ってなかった。

「もしかして、このマンションの住人?」

その男性は、私が想像していたよりも中性的な高めの声質で問うてきた。

「は、はい」

やっぱり、こちらをじっと見つめる大きな瞳は印象的で、色素の薄い髪は夜風になびいている。

今日は白地に薄い青のチェックが入っているシャツ、それにベージュのチノパンを合わせて足元は裸足に緩いサンダルだ。

思った通り細身で、男性にしては華奢な人だった。
だけど、背は女性の平均的な身長である私より少なくとも十センチは高そう。


「今朝はいなかったから、今日は会えないかと思った」

「えっ」

ふわりと微笑まれて、ようやく彼の違った表情を見ることができたと思ったその時、再びスマフォが震えた。
藤白さんからだ。

「あ、電話? どうぞ」

軽く頭を下げて電話に出る。


「もしもし?」

「瀧本、悪い!」

いきなり、電話越しに大きな声で謝られてしまった。

「えっ、何ですか?」

「さっきの、嘘だった。流星群、今日じゃなくて八月だった」

「えっ、あ、そうなんですか? 八月ってまだ、だいぶ先じゃないですか」

私もしっかりそのまま信じてしまったのが恥ずかしい。

「勝手に騒いだりしてごめんな。ネットで見つけてすぐ知らせないとって慌てて電話したんだ。後からよく見たら日付が違ってた。完全な見間違いだな」

藤白さんの苦笑いに、私もつられて笑みを返す。

「いいですよ、別に。私も……初めてマンションの屋上に上れることに気づいたし」

「おっ、そうか? でもなあ……」

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