朝、きみと目が合って
「この間、知り合いから鉢植えをいっぱいもらったんだ」

さっきの私の質問に、柳さんがぽつりと答えてくれる。

「あ、じゃあ、朝からベランダでガーデニング?」

「まあ、そんなところ……って言っても、育て方とかさっぱりだから我流なんだけどね。一応、基本的な水やりとかは教えてもらったけど。あの時間に水やりしたり、ちょっと様子見たりしてる」

「そうなんだ。いいね、楽しそう!」

「もっと楽しめるようになれればいいんだけどね、まだまだ大変で」

お世辞ではなく心から羨んで言ったら、柳さんは小さく苦笑した後で話を変えた。

「ねえ、屋上初めてなんだ? さっきの電話、聞こえたんだけど」

「あー、そうそう。人騒がせな上司が流星群が見えるって言うから思い切って来てみたんだけど、何か勘違いでペルセウス座流星群が見えるの、本当は八月なんだって」

「ははっ、それは本当に人騒がせな上司だね」

「だよね。だけど、私も疎くて、まんまと信じちゃったから恥ずかしい」

「僕もよく知らないなあ」と、柳さんが空を仰ぎ見ながら漏らした。

そう、これでも私はWebメディアに携わる端くれだ。
ペルセウス座流星群なんてまだポピュラーな方だろうし、もっとアンテナを張っておくべきだなと反省する。
無知な自分が情けない。

そうだ。今度、Webマガジンで流星群や星座に関する特集を組むのもいいかもしれない。
早速、週明けにも藤白さんに提案してみよう。

気持ちを切り替えて、私も柳さんに並んで柵に手をかけ、空を見上げた。

「でも、そのおかげで屋上に来られたし、ちょっとよかったかな。ここ、風が気持ち良いよね」

涼やかな夜風が、私たちの頬や腕をくすぐっていく。
梅雨特有のじっとりとした空気を和らげてくれている。

「でしょ? 僕、結構気に入っててよくいるよ。みんな、立ち入り禁止と思ってるのか、誰かに会ったのは瀧本さんが初めてだけど」

「そっか。じゃあ、せっかくの貸切を邪魔しちゃったね」

「えっ、そんなことないよ。よかったら、これからも来てよ。……ってここ、僕のものじゃないけど」

言ってからきまり悪そうに柳さんが目を逸らした後で、二人で笑った。

< 14 / 25 >

この作品をシェア

pagetop