最初で最後の嘘
プロローグ
「歩、お前な遅いぞ!」
「時田君は相変わらず、格好良いままだわ。学生時代の憧れがそのままなのはありがたい!」
控室の扉を開けると、口々に声をかけられる。
だが、耳には届いても、それは通り過ぎていくもので。
俺は、柔らかく優しく微笑んでいる花嫁だけをまっすぐ見つめた。
昔からずっと見ていたその笑顔そのままで微笑む花嫁。
ただ違うのは、彼女が身に着けているのが真っ白な花嫁衣裳。
何度も傷つけた。
苦しくて苦しくて。
そのたびに彼女を傷つけた。
一層、嫌ってくれれば良いのにと。
でも、彼女は俺にいつでも笑いかけるのだ。
いつでも。
そう、今も。
だから、嫌いだ。
嫌らわれたいのに、俺に微笑みかける彼女が大嫌いだ。
俺をこんなにも苦しくさせる彼女が嫌いだ。
それでも、俺は彼女の笑顔に、近づきたくて、触れたくて。
彼女の目の前に立つ。
やっぱり、微笑んだまま俺を見つめる。
俺はそれに微笑み返すことをせず、彼女の腕を掴んだ。
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