最初で最後の嘘
拭った涙の温かさとか。
耳を掠める柔らかな吐息とか。
絡めた小指の小ささとか。
ドキドキしながら重ねた唇の甘さとか。
花咲くように笑う、その笑顔とか。
全部、全部。
心の奥底に眠っていた感覚が蘇る。
彼女が俺を憎み、その全てが失われても。
この時感じた幸せを覚えておこう。
確かに、幸せだった。
そのことだけは覚えておこう。
彼女が俺に向けてくれた笑顔がこれで最期ならば、できるだけ色褪せないようにと俺は記憶に焼き付けた。
幸せの証として。