最初で最後の嘘
「歩。久しぶりにキャッチボールするか?」
子供たちが大きくなって、週末に三家族そろってなんてことはなくなったけど、それでも数か月に一度はこうして集まって食事をしていた。
それも俺たちが中学生くらいまでだったけど。
俺にとって自慢の兄貴だった。
格好良くて、優しくて、スポーツも勉強もできて、誰にでも好かれて。
自慢だった。
でも、その完璧さが、瑞希にまでも好かれる奏兄が妬ましくて仕方がなかった。
「……いい。もう、奏兄とはしない」
その返答に、驚きの表情を奏兄は浮かべたけど、すぐに優しく微笑んだ。
「そうだよな。友達がいるしな。たまには俺にも付き合えよ」
そう言って、俺の頭をぐりぐりと撫でるから、俺はそれを乱暴に振り払った。
俺にとって奏兄は恋敵で。
でも、奏兄にとって、俺はただのガキでしかない。
「ウザい。俺に構うなっ!!」
大きな声を出したせいか、みんなが一斉に俺へと驚きの表情を見せる。
どうしたらいいか、わからない。
それでも、奏兄と今まで同じように接することはできない。