最初で最後の嘘



「吉川。泣くな。ブサイクになるぞ」



 俺はそのたびに涙を拭ってやる。


 辛い片思いは同じ。


 奏兄を思って泣く瑞希に胸は痛むけれど、奏兄に焼け付くような嫉妬は覚えるけど。


 それでも、こうして涙を拭って頭を撫でてやれるのは俺だから。


 こうして、一番傍にいられるのは俺だから。


 最後には泣きはらした目でにっこり笑ってくれる。


 その笑顔は俺だけのもの。


 小さくて柔らかい手に触れて、指をからめて笑い合う。


 俺たちの秘密の時間だった。


 いつか、淡い初恋が憧れと気付き、俺へと目を向けてくれると信じていた。


 俺の傍で泣いて笑ってくれる瑞希を見て、そう信じていた。


 その希望の芽を摘み取ってしまったのは他ならぬ俺自身。


 奏兄を思う瑞希を見ているのが苦しくなって。


 俺を見てくれない瑞希が憎くなってしまって。


 逃げ出してしまったのだ。


 後悔なんて、何度もしてきた。


 昨日もっと早く寝ておけば良かったとか。


 あの本も借りて来れば良かったとか。


 そんな些細なものがたくさん。


 些細のものの中に、俺の人生を変えるような大きな後悔は3つ。


 一つ目が、始まりの一歩はすぐそこ。




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