最初で最後の嘘
始まりの一歩
瑞希は毎年、おばさんと作った手作りのチョコを俺たち男連中に渡す。
物心ついた頃からの恒例だった。
小学5年の2月。
今年も恒例の行事。
されど、瑞希にとっても俺にとっては、今までの恒例とは違った意味が含まれていた。
「毎年、ありがとう。瑞希」
親父連中はデレデレと瑞希からチョコを受け取る。
瑞希が唯一の女の子であると同時に、甘えたがり屋の愛されるべき性格の特典みたいなもので、俺や奏兄より可愛がられているのは明明白白であった。
「はい。時田君。いつもありがとう」
親父たちに見せた笑顔よりも数段にこにこして俺へと手渡される。
礼を言って受け取ろうとした瞬間、目に入ったのは、俺や親父たちとは違う包装がされた箱。
その綺麗に包装された箱は奏兄へと手渡されるもの。
伸ばしかけた手が途中で止まる。
柔らかな声で耳元で秘密の話を囁かれるのは俺なのに。
いつも傍で見守っているのは俺なのに。
涙を拭っているのは俺なのに。
瑞希を好きなのは俺なのに。
それなのに、瑞希は奏兄にだけ特別を手渡すのだ。