最初で最後の嘘




「……いらない」



 俺は伸ばした手で瑞希の手を払いのけた。



「え?」



「いらない。たくさん、あるから」



 違う。


 他のチョコなんてどうでも良かった。


 ただ、お菓子が増えるという感覚しかない。


 瑞希のチョコだけが特別だった。


 でも、それは彼女にとっては特別ではなかったのだ。


 悲しみと憎しみが入り混じって、瑞希の顔が見れない。


 見たくない。



「いつも、もらってくれたじゃない!」



 強気に瑞希は言い返す。



「もう、いらない」




「歩君は、たくさん貰ってるもんね。奏以上じゃないの?あんたこんなに貰って来たことないでしょ?」



 奏兄のおばさんの問いに奏兄は笑った。



「確かにここまで貰ったことはないな。さすがは歩だな。でも、瑞希のチョコが一番美味しいだろ?」



 瑞希の視線が奏兄に動いたのが、見ないでもわかった。


 眩暈がする。


 足元がふらつきそうだ。




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