最初で最後の嘘
「……時田君、受け取って」
「しつこい。いらない」
「時田君にはチョコじゃないのにする。今から作るから。クッキーがいい?それともお饅頭?」
「いらないって言ってんだろ!!」
つい、大きな声をあげてしまって瑞希の顔を見てしまう。
大きな声を出されて瑞希の目には涙が滲んでいた。
決壊寸前で表面張力で保っているような状態。
「瑞希。泣くな。歩も受け取れば良いだけだろ?何でそんなに意地を張るんだ?」
当たり前のように瑞希の涙を指で拭い、俺へと不思議そうに首を傾ける奏兄。
その行為が、俺にとってどれだけ衝撃的なものかなど知る由もないだろう。
かぁ~と込み上げてくる怒り。
触るな。
瑞希に触るな。
当たり前のように、俺の特別を奪っていく奏兄。
俺にとって、瑞希の涙を拭うのは、当たり前だけど特権で、特別で。
不可侵の世界で、全てが満たされる瞬間。
それを奏兄は本当にただ、ひたすら、当たり前に。
呼吸をするように瑞希の涙を拭う。
そんな風に瑞希を扱うな。
奏兄は何もわかっていないのだ。