最初で最後の嘘
でも。
大事に思っているのは俺なのに、それなのに。
瑞希は奏兄のことが好きなんだと打ちのめされる。
奏兄の袖口を掴み、目を潤ませて笑うのだ瑞希は。
正直で残酷な瑞希。
一瞬にして、俺の心を凍らせてしまう。
それでも心の底奥には渦巻く憎しみ。
「時田君。受け取ってください。食べなくてもいいから。ちゃんと、時田君が好きなもの作るから、明日には持っていくから。だからね、このチョコももらって。一生懸命作ったの。だから……」
必死に訴える瑞希に何も感じない。
いや、傷つけたい。
俺の心を踏みにじったのだ。
思い知ればいいのだ。
何も知らないこの純粋無垢な女の子が憎くて、その顔が歪む姿が見たい。
俺は震える手で突き出されたチョコを受け取った。
けれど、その顔が笑顔になる前に。
チョコの入った箱を瑞希に投げつけ、落ちたところで踏みつけた。
箱がぺしゃんこになる音が聞こえて、足を上げると見るも無残なただのごみ。
俺はそれを軽く蹴り飛ばすと、立ち尽くす瑞希の足へと当たり、俺と瑞希の間で止まる。