最初で最後の嘘



 しばらくの沈黙の後、俺はゆっくりと顔を上げた。


 そこには俺の思い描いた通り。


 瑞希がポロポロと涙を流している姿だった。


 箱の角が当たった額が少し赤くなっていた。


 歪んだ顔ではないけれど、それ以上に絶望したような顔で、俺は救われたような気になった。


 それなのに、どうして、こんなにも苦しいのかわからない。


 どうして、胸が引き裂かれて、息もできなくなってしまうのかわからない。


 チョコと一緒に自分の心まで潰されてしまったみたいだった。



「このバカっ!!!」



 親父は俺の頭を張り飛ばす。


 避けなかったのは、瑞希を傷つけたことに対する罪悪感から。


 傷つく顔がみたくて、やったことなのに。


 どうして、こんなに苦しいのだろうか


 殴られたことで、呼吸ができた。


 足が凍りついて歩けないなんてこともなくなった。




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