最初で最後の嘘
「……いらないものを押し付けてくるのが悪いんだ」
俺は切れた口の中に広がる血の味を噛みしめて、リビングから飛び出した。
時が巻き戻せるのなら、この時に戻りたい。
戻って、毎年のようにチョコを受け取っていれば。
瑞希が好きだから、特別なチョコが欲しいと言っていれば。
未来は違ったかもしれないと。
でも、この時の俺は。
瑞希から嫌われて、この苦しみから解放されたいと願うことしかなかったのだ。
奏兄だけでなく、瑞希とも距離を置くようになった。
俺の幸せを構成していたものを自ら切り離した。
辛くて逃げ出した。
それでも、瑞希とは毎日顔を合わせる。
同じクラスなのだから当たり前だ。
瑞希はあの後、一週間学校を休んだ。
元気な瑞希が熱を出した。
自分のせいだろうか。
そう思うと、胸が痛む。
その一方で、報いを受ければいいと思った。