最初で最後の嘘
俺の態度などお構いなしの瑞希への苛立ちは募り、顔も見たくなくなった。
好きだと思う感情がなくなり、やるせなさと苛立ちだけが積み重なったのだ。
好きだからこそ。
瑞希のことが欲しいからこそ。
手に入らないからこそ。
負の感情が顔出すのに、俺は瑞希が嫌いだからこその感情と自分に言い聞かせた。
当時の俺はそう思い込んでいた。
そんな俺は瑞希と離れたくて、私立中学を受験し、念願かなって、瑞希と離れることができたのだ。
正直、中学と高校の頃の瑞希の思い出などないに等しい。
もちろん、奏兄との思い出も。
道ですれ違うことさえ珍しく、家族が集まっての食事も、部活に励む俺や大学に進学した奏兄からしたら迷惑な話だったから、瑞希とまともに会話をしたことなどない。
そう言い切れるのは、俺は瑞希を煙たく感じていたのは離れていても変わらなかったから、会話などするはずがないということ。
そして、もう一つ言い切れる理由は。
彼女との会話が俺にとって忘れることなどできない貴重で幸福な時間だから。
そう、忘れることなどできない記憶になるから。