最初で最後の嘘



 奏兄とすれ違えば、やっぱり瑞希と同じように俺へいつもの柔らかな微笑みで声をかける。


 無視しているのに、性懲りもなく何年も。


 微笑みかけるだけならまだしも。















「瑞希をあんまり悲しませるな」



 そんな風に兄貴面して、瑞希の気持ちも知らないくせして訳知り顔している奏兄に気持ちがざわめく。


 そして瑞希の前でも。


 俺との交流がなくても、うちの親は瑞希を娘のように認識していた。


 三家族唯一の女の子であり、性格的なものから言っても可愛がられる。


 だから、うちに出入りしているのも、どうせお袋が呼んだからだ。


 いつもなら、自分の部屋に逃げ込んで瑞希と顔を合わせない。


 けれど、伊織がいたことによって、いつも以上に感情が揺さぶられることとなる。



「私、吉川瑞希って言います。おばさまから聞いてたけど、すごく大人っぽくて綺麗!時田君とお似合い」



 伊織とは正反対の子供っぽい笑顔を俺と彼女に向けてはしゃぐ瑞希。


 その無邪気さが俺を乱す。


 負の感情を生み出させる。



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