最初で最後の嘘



「他の大学は開始5分で寝たけど、一時間は起きていられたような気がするよ」



 と笑いながら言っていた。


 他に丹羽を表す出来事と言えば。


 FXで大儲けして、高級車に乗っていると思ったら大損して俺にたかる。


 果ては、俺を騙しホストクラブでバイトさせようとした。


 当然、俺は丹羽を病院送りにしたが、そんなこんなでも友人としているのはこいつの特殊性だろうか。


 なぜ丹羽とつるんでいたのかと言えば俺の勘。


 何度も見捨てようとしたが、俺にへばりついてきたのも一因であるが、どこかで丹羽が俺の助けとなると思っていたからだ。


 そして今、この瞬間、花嫁衣装の瑞希の腕を掴んでいるのは、丹羽の助けがあったから。


 俺の勘は当たったわけだ。


 その導く先が奈落だろうと、構わない。


 あのままで立ち止まっていることなんかできなかった。


 俺の時間はチョコを踏みつぶした時から、止まっていたのだ。


 伊織と出会い、穏やかに水は流れているのかと思っていたけど。


 上辺だけを俺は見て、堰き止められている水を見ようとしなかった。


 やがて、堰き止めていた水が溢れかえり、何もかもを滅茶苦茶になっていく。


 そのきっかけを与えたのは、いや、与えてくれたのは丹羽だったのだ。




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