最初で最後の嘘
「だから、佐伯さんみたいなオプションつけなくても、歩一人で充分スペックがあるだろ?何で好きでもないのに何年も付き合ってるのか僕にはギモンだね。難解だね。奇妙だね。厄介だね」
丹羽の発言に不覚ながら面食らい、一瞬だけ固まってしまった。
「……お前って、本当にシュールだな。いつか刺されるぞ?」
「僕は疑問を持ったら自分で答えを探す。この疑問にも僕はかなりの時間をかけて挑んだ」
俺の言葉など無視する丹羽は、哲学者のように眉間に皺を寄せた。
「でも、解けなかった。降参だ。答えを教えてくれないかい?なぜ、佐伯伊織と付き合っているんだい?」
「…………逆に問いたい。なぜ、俺が伊織のことが好きじゃないと言い切る?」
初めてだった。
誰もが、俺は伊織のことが好きで、惚れているから長く付き合っていると思っている。
それを否定したことがない。
好きなのかと問われたこともなければ、好きでないと断言されたこともない。
そして、好きかどうかなんて考えてみたこともなかったのだ、俺は。