最初で最後の嘘
泣き崩れることも。
怒りに身を任せることも。
皮肉に口許を歪めることも。
お似合いだ、とからかって笑うことも。
俺はできなかった。
疎外。
虚無。
驚愕。
嫉妬。
愉快。
どれにも当てはまりそうで当てはまらない。
何も考えられないけれど、本能的に逃げ出した。
いや、考えずとも目に映した光景がすべて。
二人は幼馴染ではなくなった。
瑞希の片想いでなくなった。
奏兄は瑞希を一人の女として……
今まで捕まることがなかった現実に俺は捕まった。
捕まってしまったのだ。
もう堪忍しろ、と。
現実から逃げられるわけないだろ、と特大の嘲りと共に俺の肩に手をかけたのだ。
それにさえ足掻く俺がいたけれど、一度捕まったら、現実は付いて離れることはない。
今、この時でさえ。