最初で最後の嘘
「黒崎さんと吉川さんのところにも迷惑かけてるんだぞ」
「奏君と瑞希ちゃんも捜してくれたのよ。何時間も。あんた、どれだけ心配したかわかってる!?」
両親の怒鳴り声さえ、耳を通り抜けるのに。
二人の名前は嫌と言うほど耳にこびりついた。
隣の現実が俺の顔を覗き込む。
忘れるなんて許さない。
逃げるなんて許さない。
そうにっこり残酷に微笑む。
「……歩?」
「…………なぁ」
自分だけが止まっていた時間。
それを埋め合わせるために問うのだ。
愚かだと俺の首を締め上げる現実が、俺の声さえも奪う。
「………………奏兄と吉川って付き合ってんのか?」
そう。
現実は容赦ない。
「何だ?お前、知らなかったのか。今さら……歩?」
現実は容赦ない。
逃げ出した罰を。
逃げ続けた罪を。
報いは受けるべきだと。
「……あ、あんた、どうしたの?」
「何が?」
「何が、って……変な顔して」
困惑する両親の顔に、笑いたくなった。
いや、トンマの俺を笑いたかったのかもしれない。