最初で最後の嘘
「自分が無愛想だと言う自惚れが、感情を隠すことを学ばなかった原因と僕は推察する。そのおかげで君の感情はだいたい読み取れていたんだ」
「お前だけだな、そんなこと言うのは」
「でも、今の君の表情は誰にでもわかる。耐え難いことが起きたのだろう?今までの歩を変えてしまうほど」
耐え難い?
確かに耐え難い。
でも、耐えることができる。
できている。
そうでなければ、こんなところで丹羽と話してなどいない。
伊織と付き合い続けているはずがない。
「確かに、俺は見たくない現実を見せつけられた。それが俺の何かを変えたかも知れない」
言葉を選び、本心を晒し、紡いでいく。
「でもな、些細な変化だ。驚くほどに。何もかも覆すかと思っていたのに、俺はこうして日常にいる」
すっと息を吸う音が聞こえたかと思うと、ぎゃははと机を叩き笑い転げる丹羽。
笑いすぎで椅子から滑り落ち、文字通り笑い転げる。
怒りや侮蔑より唖然とする。