最初で最後の嘘
「事例その3。君は佐伯伊織と付き合っている意味がないと感じている」
「そんなことはない」
「事例その3の事例その1。今の即答」
考えずに即答はこいつには嘘とされる。
丹羽の意見を完封なきまでに潰す方法を請いたい気分だ。
こいつの口と頭は年中無休。
「事例その3の事例その2。決闘を申込みし若い青年の熱意を一瞬で粉砕した」
その若い青年とは、伊織の所属するゼミの先輩。
「時田歩!!伊織とは別れろ。俺のほうが伊織を愛している!!!」
どこで聞き付けたのか。
セリフだけでなく、その熱血な口調までも、あのバカ男を見事に再現している。
「で、その阿呆を迷わず殴り飛ばしたから、伊織がどうとでも良いとでも?」
「八つ当たりで熱意ある若者の恋心を踏みにじるとはね~実に可哀想な話だ」
「事例その3とやらと食い違う事例だな」
こいつの話に心臓を疲労させているのがバカみたいだ。
「君はその熱血漢に『くだらない。失せろ』と言ったらしいじゃないか」
「それが?世間的には、挑んであっさりやられた阿呆へ向けたセリフだろ」
丹羽はにっこり微笑んだ。
それは俺の失言を意味する。